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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)103号 判決 1992年1月23日

東京都渋谷区神宮前3丁目1番25号

原告

株式会社 ニコル

代表者代表取締役

松田光弘

訴訟代理人弁理士

三嶋景治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 深沢亘

指定代理人

宮崎勝義

廣田米男

有阪正昭

"

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和63年審判第17265号事件について平成3年3月14日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

商標登録出願人 原告

出願日 昭和61年12月10日(昭和61年商標登録願第130544号)

本願商標 欧文字「ZELDA」を書してなる商標(別紙1のとおり)

指定商品 第17類「被服、布製身回品、寝具類」

拒絶査定 昭和63年9月2日

審判請求 同年9月30日(昭和63年審判第17265号事件)

請求不成立審決 平成3年3月14日

2  審決の理由の要点

(1)本願商標の構成、指定商品及びその登録出願日は、前項記載のとおりである。

(2)原査定において本願商標の拒絶理由に引用した登録第2012648号商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙2に表示したとおりの構成よりなり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、昭和55年8月4日に登録出願され、同63年1月26日に登録がなされ、現に有効に存続するものである。

(3)本願商標は、その構成文字に相応して「ゼルダ」の称呼を生ずることが明らかである。

他方、引用商標は、別紙2に表示したとおりの構成よりなるところ、該構成は、やや図案化されているとしても、レタリングの発展ないしCI(コーポレートアイデンティティー)の重要性の認識が高まるに伴い文字の図案化が頻繁に行われている近時においては、「ゼ」と「ダ」の間に描かれているものは二本の縦棒を配してなるとみるよりも、片仮名の「ル」を「ゼ」「ダ」の表現形式にあわせるべくやや図案化して「ル」の左の部分の字形の先端を「ゼ」の筆先と接続させ、他方「ル」の右の部分の字形の先端を「ダ」の筆先と接続させてなるものと看取するものとみるのが相当である。そうとすれば、引用商標は、「ゼルダ」の文字よりなるものと認められるから、該文字に相応して、「ゼルダ」の称呼を生ずるものといわなければならない。

したがって、本願商標と引用商標とは、外観及び観念の異同について論及するまでもなく、「ゼルダ」の称呼を共通にする称呼上類似の商標であり、かつ、両者は、その指定商品を同じくするものであるから、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し登録することができない。

3  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)及び(2)は認める。同(3)のうち、本願商標はその構成文字に相応して「ゼルダ」の称呼を生ずることは認め、その余は争う。

引用商標の構成態様から、一見して片仮名文字の明確な「ゼダ」より「ゼダ」の自然的称呼が生ずるものとみるのが合理的であり、審決はその認定を誤った違法なものである。

すなわち、

(1)審決は、引用商標は、片仮名文字の「ゼ」「ダ」と同様「ル」もデザインして一連としての称呼が生ずるとの認定判断であるが、引用商標は、その構成態様をみれば明らかなとおり、片仮名文字として「ゼ」と「ダ」が明確に看取できるが、「ゼ」と「ダ」の間にある縦棒を敢えて片仮名文字の「ル」と認識看取できるものではない。

(2)文字を図案化し、取引者需要者に印象づける手法は、原告もよく知るところである。

しかしながら、レタリングの発展形態例えば波線の手法や続け文字の手法に倣った表現形態によっても、片仮名文字「ル」のデザインが引用商標のごとく二本の縦棒のごとくに飛び出したようなデザインになるとされる理由、根拠は認められない。

原告の言う「ゼ」と「ダ」の文字の表現形式にあわせるべくやや図案化するなら、その表現形式はややひらべったく丸を基調としたデザイン文字であり、片仮名文字の「ル」は「ゼ」及び「ダ」と同等の文字幅にて丸みをもって表現されるものであり、とくに一見して二本の縦棒を配してなるかのごとき「ゼ」と「ダ」の文字の上限より突出しているその構成態様は、一見して文字の「ル」と認識看取するには困難である。

(3)今日の簡易迅速化された商取引の実際、及び、一瞥一見して言いやすく見やすい部分に拘泥して取引が行われやすい実情に徴すれば、引用商標の構成態様からは、「ゼダ」のみの自然的称呼をもって取引に供されるとみるのが合理的である。

(4)なお、原告は、本願商標を構成する「ZELDA」の語が一般人にも親しまれているという事実を知らない。

仮に、「ゼルダ伝説」なるファミリーコンピューターゲームにおけるソフト名が有名であるとしても、引用商標と同様のデザインからなる表現はなく、引用商標に接する一般取引者需要者において、「ゼルダ」として容易に認識看取するものとは認め難いものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1及び2は認める。同3は争う。

審決の認定、判断は相当であり、審決に取り消すべき違法はない。

2  被告の主張

(1)引用商標中の「ダ」の文字の表現形式は、「タ」の濁点を二つの黒丸で表し、該黒丸を「タ」の上部の横棒と一直線になるように配置し、しかも、二つ目の黒丸を「タ」の右側の縦棒の頂点に配置するとともに該横棒をゆるやかな曲線を描きながら「ル」の右側の線に接続した構成よりなるものであり、同じく、該引用商標中の「ゼ」の文字の表現形式は、「セ」の濁点を「タ」の濁点と同様に二つの黒丸で表し、「ゼ」の下方の線を上向きのゆるやかな円弧を描くようにして中央の「ル」の左側の縦棒と連続させたものであり、単にその後を延長したものとはみられないものであって、該「ゼ」「ダ」のいずれも続け文字の図案化の発想に基づくものであることは明らかである。

また、中央の二本の縦棒の上部は左右の「ゼ」「ダ」のいずれよりも突出し、文字の図案化における波線の手法による「ル」を表示したものと認識し易い表現形式となっており、該引用商標に接する取引者需要者はこれを「ル」の左側を「ゼ」に接続し「ル」の右側を「ダ」に接続した続け文字であると認識するとみるのが相当である。この点、「ゼ」と「ダ」の中間にある縦棒はただの縦棒であるとの原告の主張は失当である。

したがって、引用商標は、「ゼルダ」の文字よりなるものと認められ、該文字に相応して「ゼルダ」の称呼を生ずるものとした審決の認定、判断に誤りはない。

(2)さらに付言すれば、引用商標を構成する「ゼルダ」、本願商標を構成する「ZELDA」のそれぞれの語は、ともに「ゼルダの伝説」がファミリーコンピューターのソフトのタイトル(ゲーム名)として極めて有名であることと相俟って、ファミリーコンピューターの愛好者だけでなく一般人にも親しまれているものであり、たとえ「ゼ」と「ダ」の中間の「ル」の文字が上記のように変形されたものであるとしても、引用商標に接する取引者需要者は容易に「ゼルダ」を表してなるものとみられるといわなければならない。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  本件に関する特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点、本願商標の構成(別紙1)、指定商品及び登録出願日、引用商標の構成(別紙2)、指定商品、登録出願日及び設定登録日については当事者間に争いがない。

2  取消事由に対する判断

別紙1のとおりの構成からなる本願商標が、その構成文字に相応して、「ゼルダ〕の称呼を生ずることについては当事者間に争いがない。

一方、別紙2のとおりの構成からなる引用商標は、その構成態様からみて、まず、左に図案化された「ゼ」、右に図案化された「ダ」の文字が配されていると認識されることは明らかである。そして、「ゼ」と「ダ」の中間に、各文字を構成する線と同じ太さの平行な縦棒二本を配し、その間隔と左側縦棒と「ゼ」の右側の図案化された縦線との間隔及び右側縦棒と「ダ」の左側の図案化された縦線との間隔を同じくし、「ゼ」の下方の線を右上方向にゆるやかな曲線を描いて延長して左側縦棒の下部に連続させ、また、「ダ」の右側の線をゆるやかな曲線を描いて下方に至らしめたうえ水平に延長して右側縦棒の下部と直交させたもので、この構成によれば、左側の縦棒とその下部から「ゼ」の下方に至る曲線部分は「ル」の左半分の「ノ」を連想させ、右側の縦棒とその下部から水平に延びて「ダ」の下方に至る曲線部分は「ル」の右半分の「レ」を連想させ、両者は相俟って中央の平行な二本の縦棒とその左右に延びて「ゼ」及び「ダ」に至る曲線及び直線により「ル」を図案化したものとして認識されるものと認めることができる。このことは、いずれも成立に争いのない乙第1号証(「ロゴタイプ事典」・株式会社視覚デザイン研究社・昭和63年6月1日発行、342ページないし346ページに記載された「つづけ文字」の例)、同第5号証(資料「マークシンボルロゴタイプ」1978-79・株式会社グラフィック社・1980年9月25日発行、1202、1205、1211、1213の例)、同第6号証(資料「マークシンボルロゴタイプ」1982-83・株式会社グラフィック社・1984年9月25日発行、183、539の例)、同第7号証(「ロゴタイプ」・柏書房株式会社・1983年4月15日発行、243、260、271、273の例)、同第8号証(日本タイポグラフィー年鑑1984・株式会社グラフィック社・1983年11月25日発行、321、322の例)及び同第9号証(「LTSP記録集」1984-1985・日本タイポグラフィー協会・1985年12月1日発行、66ページ、104ページ及び199ページ)等に示されているように、数文字からなる文字群の図案化において、隣り合う各文字の一部分を隣の文字まで延ばして連続させ、その連続性により一体感ある文字群とすることが一般的な手法であって、引用商標に限られた特殊な手法ではないものと認められることからも明らかであるし、引用商標において、中央の平行な縦棒二本の上部が左右の「ゼ」「ダ」の上限よりも多少突出している構成が、かえって看者に「ル」の文字の存在を意識させる結果となり、「ゼ」と「ダ」の中間部に「ル」の文字が存在することをを表示したものと認識し易い表現形式となっているものと認めることができるのである。このように、引用商標は、全体としては「ゼ」「ル」「ダ」の三文字が図案化された続け文字として並んでいることが認められるものであり、それぞれの文字の末尾部分を単に長く延ばした「ゼ」と「ダ」の二文字が並んでいるものと認めることはできない。したがって、該引用商標に接する取引者需要者は、これを「ル」の左側を「ゼ」に接続し「ル」の右側を「ダ」に接続した「ゼルダ」の続け文字であると認識するものと認めるのが相当である。

以上によれば、引用商標は、「ゼルダ」の文字よりなるものと認められ、該文字に相応して「ゼルダ」の称呼を生ずるものと認めるのが相当であり、本願商標と引用商標とは、称呼を共通にする類似の商標であるところ、本願商標と引用商標とはその指定商品を同じくするものであるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当し登録することができないものであり、審決の認定、判断に原告主張の違法は存しない。

3  よって、本件審決の違法を理由にその取り消しを求める原告の本訴請求は、その余の点に付いて判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙1

<省略>

別紙2

<省略>

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